小田急線経堂駅からすぐの商業施設「経堂コルティ」。
その開放的な屋上庭園で開催され、多くの親子連れでにぎわっているのが「こども天国」です。
一見、単なる「楽しいイベント」のようですが、その根底には、多様な悩みを抱える子育て世代に支援情報を届け、相談窓口につなぐ「地域の子育て世代のセーフティネットを構築する」という強い目的があります。
イベントを通じて地域のつながりを紡ぐ、地域と企業の協働のプロセスを取材しました。
コロナ禍で一変した子育て環境。今、地域に求められるもの
孤立化した親子と情報の届け方に悩む支援団体
もともと経堂地区では、子育て支援団体や、住民による子育てサロンの横のつながりをつくるため、2019年に「子育て支援ネットワーク」が立ち上がりました。
しかし、そこに襲いかかったのが、コロナ禍による交流の自粛です。
対面での接点が失われた数年間で、地域の子育て環境は激変しました。
発達障害や心身障害、不登校など、親子が抱える課題はより多様化・深刻化していったのです。
地域にはそれぞれの課題に応じた多様な支援活動が存在しているものの、孤立する親子へ必要な情報が届かないことが大きな課題となっていました。
そしてこの状況には、地域の子育て支援団体自身も「せっかくの活動が支援が必要な親子に届いていない」「もっと自分たちの活動を知ってもらい、親子に寄り添いたい」と、強く感じていたのです。
地域の親子が支援活動に出会える場所の誕生
「それなら、親子が楽しめて、同時に地域の様々な子育て支援団体に自然と出会える場所を、みんなで一緒に作ろう」
子育て支援ネットワークのメンバーの想いが重なり合い、企画されたのが、地域の交流イベント「こども天国」でした。
経堂地区子育て支援ネットワークのメンバー
- NPO法人せたがや子育てネット
- 子育て支援コーディネーター
- おでかけひろば
- 児童館
- 民生委員・児童委員
- 社会福祉協議会(事務局)
「親子が集まる場所」を求めて——経堂コルティとの出会い
心理的ハードルを下げる屋上庭園という選択肢
イベントの立ち上げにあたり、最初に直面したのが「会場の確保」という課題でした。
「経堂には親子が気軽に立ち寄れる場が少ない」というネットワークのメンバーの声を受け、白羽の矢が立ったのが、地域住民が集う商業施設「経堂コルティ」でした。
このアイデアを実現するため、ネットワークの中心を担う支援団体のメンバーと、事務局である社協の職員が、一緒に経堂コルティを訪問。会場の提供を含めた、イベントの企画協力を提案しました。
通常、地域福祉に取り組む社協の活動は、地区会館などの公共施設で行われるのが一般的です。しかし、普段から児童館や「おでかけひろば」に行きづらさを感じている、悩みを抱えるお母さんにとって、そのような公共施設は、さらに心理的な距離を感じてしまう場所でもあります。
だからこそ、日常的に利用する商業施設という「生活動線上のオープンな空間」で開催することで、心理的ハードルを下げ、普段は支援情報が届きにくい層にもアプローチできる——。
これこそが企業と協働することの最大の強みでした。

多くの親子連れでにぎわう、開放的な屋上庭園
子育てを応援したい想いが重なって実現した、地域と企業の協働
この提案に、経堂コルティ側も深く共感しました。
運営会社である小田急SCディベロップメントは、以前から「子育て応援」に力を入れており、施設内でも子育て世代向けの取り組みを展開していたのです。
「地域の子育て世代を応援し、活気ある街をつくりたい」という両者の方向性が一致していたことから、経堂コルティによる協力が得られることに。
会場や備品の無償貸与だけでなく、自社の発信力を活かした広報面まで、心強いバックアップを受けて「こども天国」の開催が実現しました。
企業インタビュー
経堂コルティが「こども天国」にかける想い

株式会社小田急SCディベロップメント
世田谷営業室
稲葉將人さん
子育て世代だからこそ感じた、つながる場所の必要性
「こども天国」立ち上げ当時の担当者である岩室大樹さんは、自身に子どもが生まれたことで初めて地域の子育て支援情報に触れ、「プレパパのときからこのような情報を知っているべきだった」と感じるようになりました。
また、以前経堂コルティのイベントに参加したシングルマザーの方から「イベントで顔見知りができたおかげで、この街に住み続けようと思えた」という声を聞いていたこともあり、孤立しがちな子育て世代が交流できる場が必要だと感じていました。
こうした想いを抱いていた岩室さんにとって、商業施設という身近な場所で親子が自然に集える「こども天国」の取り組みは、自身の目指す方向性とぴったりと重なるものでした。
マチチカ、ヒトチカへ——企業理念と響き合った「こども天国」の想い
同時に、この「こども天国」は、企業の目指す方向性とも合致する取り組みでした。
小田急SCディベロップメントでは「地域共生ステートメント〜エキチカは、マチチカ、ヒトチカへ〜」を掲げています。コロナ禍の休業期間を経て、「地元の方々に支えられている」と強く実感した同社は、地域に開かれた施設として、沿線の街とそこに暮らす人をつなげる接点になることを目指しています。
商業施設という日常の空間を活かして、地域の子育て世代が安心して暮らせる環境をともに構築していく「こども天国」は、同社が目指す「地域共生」のあり方とも合致していました。
当初は手探りでのスタートでしたが、主催する子育て支援ネットワークのメンバーたちの「イベントを成功させたい」という想いに応え、経堂コルティも主体的に運営に関わりながら、継続的な開催への土台を築いていきました。
次なる一歩へ——コルティが地域に果たす役割
地域の課題と企業理念が重なって生まれた「こども天国」。そのバトンは、現在の担当者である稲葉將人さんへ、しっかりと受け継がれています。
稲葉さんは、「経堂コルティを支えてくれているのは、地元・世田谷に暮らす人々。だからこそ、こども天国を通じて住民の皆さんに有益な情報を届けることができ、温かいコミュニティの拠点になっていることがとても嬉しい」と語ります。
これまで続いてきた「こども天国」をさらにブラッシュアップし、施設を盛り上げるだけでなく、この地域をもっと魅力的で、より住みやすい街にしていきたい——。稲葉さんは、この取り組みの先にある未来への展望を次のように結びました。
「経堂コルティから地域をよくしていくような役割を、これからも果たしていきたいと考えています」
楽しさの先に「相談」を。イベントに仕掛けられた、自然なつながりを生む工夫
各団体の得意分野を持ち寄って形づくる多彩なブース
こうして実現した「こども天国」の会場には、子どもたちが目を輝かせる仕掛けが散りばめられています。
ゲームコーナーやてづくりコーナー、音楽などの出し物で会場を盛り上げる「あそべるステージ」など、その内容は実に多彩です。
これらのブースは、1つの団体の力で用意したものではありません。
ネットワークに参画する各支援団体が「うちの団体はこんなおもちゃを持っていける」「私たちがつながりのある、素敵な出し物をしてくれる人を紹介できる」と、それぞれの得意分野やつながりを持ち寄ることで形作られています。
子どもたちが夢中になって遊ぶ手作りのゲーム
地域の支援団体がそれぞれの得意分野を持ち寄って運営
遊び場の隣に溶け込む相談窓口
子どもたちが夢中になって遊ぶ姿を親御さんが笑顔で見守ったり、時には親子で一緒にワークショップを楽しんだり。
そんな温かい空間のすぐ隣に、このイベントでの重要な取り組みである「情報・相談コーナー」が設けられています。
そこには子育て支援コーディネーターやファミリーサポートのアドバイザーなど、普段子育て世代の相談を受けている専門スタッフが常駐しています。
親子がリラックスして過ごす自然な流れのなかで、「最近どうですか?」と何気ないおしゃべりから日頃のちょっとした悩みの相談へと、無理なくつながることができます。
テーブルに並ぶ地域の子育て支援情報の数々
遊び場のすぐ隣に設けられた、安心の情報・相談コーナー
「こども天国」をきっかけに生まれた親子と支援団体のつながり
子どもたちが夢中になって遊ぶ姿を親御さんが笑顔で見守ったり、時には親子で一緒にワークショップを楽しんだり。
そんな温かい空間のすぐ隣に、このイベントでの重要な取り組みである「情報・相談コーナー」が設けられています。
イベント開催後の振り返り会議では、各支援団体のスタッフを通じてキャッチされた、親子の嬉しい変化が数多く共有されています。
「あの時の出会いがきっかけで……」
妊娠中や出産後の健診時に「おでかけひろば」の存在自体は知っていたものの、なかなか一歩を踏み出せずにいたお母さん。
「こども天国」のステージで、ひろばの先輩ママたちが楽しそうにウクレレを演奏している姿を見て、その温かい雰囲気に安心。後日、実際におでかけひろばへ足を運ぶ一歩につながりました。
たまたま立ち寄った場所だからこそ、届いた支援
お買い物ついでに屋上庭園へ立ち寄った、少し疲れた表情のお母さん。
専門スタッフがそっと寄り添って声をかけ、何気ない世間話から、日頃の心配ごとや困りごとを少しずつ聞き出していきました。
その場で地域の適切な相談情報へと案内し、孤立しがちな「見えないSOS」をキャッチすることができました。
楽しい雰囲気が、次の一歩を踏み出すきっかけに
ベビーカーの親子を笑顔で迎える受付スタッフ
対話を重ねてアップデートし続ける、ネットワークの絆
毎回の振り返りが育む支援団体同士の相互理解
2022年12月に第1回こども天国を開催して以降、年2~3回のペースで定期的に開催しています。
この活動が単発のイベントで終わらず、地域に根差した定期的な交流の場として継続している理由は、毎回行われる「振り返り(子育て支援ネットワーク会議)」にあります。
「チラシの置き方を変えたら、お母さんたちがもっと情報を見つけやすくなるのでは?」
「ブースをシフト制にして、団体スタッフも他のブースを見学できるようにしよう」
こうした細やかな対話が、団体同士の相互理解を深め、それぞれの活動の充実やレベルアップにつながっています。
細やかな対話の積み重ねが、地域の親子を支える力に
子育て支援団体を知ってもらうためのパネル
地域の課題を自分たちのミッションと捉えて主体的に動き出したネットワーク
イベントが形骸化しないように、「困っているお母さんを相談につなげるという本来の目的を忘れないようにしよう」とメンバー同士で声を掛け合う一貫した姿勢が、このネットワークの最大の強みです。
当初は社協から提示した「地域課題」でしたが、今では各団体が「自ら解決したい課題」となり、主体的な活動へと発展しています。
ネットワークのメンバーたちは、「こども天国」というイベントの成功だけに満足していません。
「子育て世代を孤立させず、地域みんなでつなげていく」という役割を果たすため、さらに地区内の多様な団体とも手を携えながら活動の幅を広げていきたいと、未来に向けた次の一歩を見据えています。
「こども天国」について
| 取り組み名称 | こども天国 |
|---|---|
| 主催 | こども天国実行委員会(経堂地区子育て支援ネットワーク) |
| 協力企業・会場 | 経堂コルティ(屋上庭園) |
| 主なコンテンツ | ゲーム・てづくりコーナー、あそべるステージ、情報・相談コーナー |
| 開催頻度 | 年2~3回定期開催 |
連携推進係
- TEL:03-5429-2370 / FAX:03-5429-2204
- 所在地・交通アクセス